趣味は読書、などと高尚に語るつもりはないのだが、わりとジャンルにとらわれず色々な本を読んでいる。読んでいる本の中には理解しきれないモノ、走り読み、途中で辞めてしまうモノなど様々だが、面白いと思った本を今回御紹介したいと思う。それが『RANGE 知識の幅が最強の武器になる』だ。
元々教育や鍛錬、能力開発などスキルや知識を効率的に伸ばし、実生活に応用しやすい実学の分野は好きだった。ビルゲイツさんも勧めているようだが、ある意味自分のような即興性を持つ知識に惹かれやすい人に対するアンチテーゼ的な本とも言える。
本の内容としてはどうすればイノベーションや成功としての土台を築くスキルを得ることができるかというものだ。こういった題材はわりと自己啓発本的なジャンルの中だと一般的なモノであり、そこまで新しさはないのだが、取っているアプローチが類似の書籍と違う。
この問いに今まで最適解とされているのが、本書でも触れられていたタイガーウッズさんの教育法に基づく超早期教育、グリットと呼ばれる精神的タフさ、1万時間の法則などが有名である。
これらの既存のルールに加えてパラレルな見方を提供しているのが本書『RANGE』だ。自分も知らなかったが、テニス界では超有名人フェデラーさんがこのタイプに当てはまるという。タイガーウッズさんの様に幼少期からゴルフクラブになじませたり、トレーニングを重ねていくのに対して、フェデラーさんはむしろ真逆で母親がテニスコーチだったモノのテニスに特化した練習をするのではなく、幼少期は球技全般に触れていたらしい。(しかも遊びの範疇で)11歳ごろテニスに自発的に取り組み、テニス界での偉業を成し遂げたそうだ。違うジャンルのチャンピオン同士タイガーウッズさんとフェデラーさんは対談もしたそうだが、フェデラーさんはやはり違うタイプだ、と感じたそうだ。
世の中で脚光を浴びたり、注目されやすいのはエリートや本道をまっすぐ進んだタイプが多い。だが、偉大な結果やイノベーションを起こした例を取り上げていくと、意外とパラレルキャリアと呼ばれる曲がりくねったキャリアを歩んでいることが多いそうだ。またその別の業種やジャンルで培った経験がかえって後々大きな成果に結びつくことも多いそうだ。
今は世間や社会共に効率性、即効性を求める時代となっている。正直自分自身も早期専門的路線が最適解と思っていただけに本書から導き出される推論は目から鱗だった。グリット(精神的タフネス)にしてもそれは絶対的なモノではなく、文脈や環境依存的に○○のシチュエーションならという限定的な場合に発動するモノらしい。このことからマッチクオリティ、すなわち自分自身の適性と能力を見極めることが最大のパフォーマンスやイノベーションを導き出すことになるというのもうなずける。
あとがきからの引用になるが、「後れを取ったと思わないこと。」「自分自身の成長を比較しなさい。スピードは個人依存的なのだから。その代わり、何かを試す実験を組み入れなさい。その過程で、意欲を持って学び、順応し、時には今までの目標を捨てる。完全に方向性を変えることを躊躇しない。」「ある分野から他の分野に移ってもその経験が無駄になることはない。」「そしてある時点での専門特化は遅かれ早かれ起こるので悪いことではない。」ということだった。本書の例として元グリーンベレーのエリートでも自分の適性やキャリアに対して悩みを抱え、同時に新しい道に進もうとするときに抵抗感を示していたそうだ。しかしながら新しい道を逡巡しながら選択した人の中で後悔している人は少ないそうだ。要は自分が今与えられている課題や道に全力で立ち向かうこと。そしてそれがいつかどこかにつながっていると信じること。これが大切なのだろう。
「すぐに役に立つ知識ほど、すぐに役に立たなくなる。」こんな言葉もある。自分も浅慮な価値判断ではなく、大局的に知識の収集と活用を心がけなければいけない、と改めて感じさせられた良書だった。